佐賀スイーツの旅Vol.1 コクと甘さが調和した素朴なお菓子「逸口香」

佐賀スイーツの旅Vol.1 コクと甘さが調和した素朴なお菓子「逸口香」

カルメラ焼のようでドラ焼のようで、しかし、そのどちらとも違う佐賀の銘菓「逸口香(いっこうこう)」。パクッと食べたら、中は空洞という不思議なお菓子です。素朴なそのお菓子は、どのようにして作られているのか。今回は「逸口香」づくりひと筋の菓子店を訪ね、逸口香の美味しさの秘密に迫ります。

※この情報は2014年11月時点のものです。

大正12年創業以来、逸口香ひと筋

 「お菓子を作りたくて作りたくてたまらなかった祖父が独自に研究して作り始めたそうです」。楠田製菓本舗の3代目・楠田雄一郎さんは生地を丸める手を休めることなく、創業時の逸話を話してくれました。
 有明海に注ぐ塩田川の下流にある嬉野市塩田町は、陶石の産地・天草と陶磁器の産地・有田町や長崎県波佐見町を結ぶ物流の拠点でした。また長崎街道の宿場町だったため、南蛮菓子も手に入ったようです。陶磁器の工房で窯守(かまもり)だったお祖父さんは手にしたお菓子をもとに見よう見まねで作り、窯の残り火で焼いていたとか。いろいろ作った結果、逸口香づくりに落ち着いたといいます。たくさんあるお菓子のなかで、なぜ逸口香だったのか? それは、簡単なようで難しいから。逸口香は気温、湿度によって焼き上がりが異なるため機械化できず、研究のし甲斐があったのでしょう。菓子業界では「逸口香を作れるようになったら一人前」といわれているそうです。


会社員だった楠田さん。「なくなるのは寂しい」「あんたが作らんなら、作る人の誰もおらんごとなるばい」と常連さんから背中を押され、17年前に跡を継ぎました。


工場兼店舗で働くのは、楠田さんご夫婦とスタッフの3人。朝6時から作業し、1日約2500個をつくります。原料を混ぜるところから袋詰めまでほとんど手作業です。


のれんの向こうは工場兼店舗。百貨店・佐賀玉屋や有明佐賀空港などに卸していますが、ここでできたての逸口香を直接買うこともできます。

黒糖のコクとほどよい甘さが魅力

 逸口香の特徴はシンプルな形と素朴な味。直径8センチ程度と大きめのサイズが嬉しく、喜んでパクッと食べると、中には餡らしい餡は入っておらず、肩すかしをくらったよう。しかし、サクッとして口あたりよく、噛むほどにほのかな甘みとコクを感じます。
 作り方はシンプル。小麦粉の生地で麦芽水あめの入った黒糖のあんを包み、手で伸ばして焼き上げるだけ。しかし、生地の中央にあんを置き、同じ厚さに広げなければ、あんが均一に溶けず、穴が開きます。生地を鉄板に乗せ、オーブンに入れて片面約7分、手でひっくり返してさらに1~2分焼いて出来上がりです。


佐賀県産小麦粉に黒糖を少し混ぜ、手でこねます。黒糖に麦芽水あめ、ハチミツ、ゴマを混ぜてあんを作り、それを生地で包みます。季節によって配合を少し変えています。


1個ずつ手で丸めていた作業は、唯一機械化されました。「ときどき機嫌が悪くなるから、いたわりながら使っている」という機械は、長年付き合った同士のような存在です。


黒糖が真ん中にあるように、また厚さが同じになるように力加減に注意を払いながら、生地を棒で伸ばします。生地を広げたら鉄板に乗せてオーブンへ。


見た目の生地は梅が枝餅のようでありドラ焼きのようでもあり...。焼き方は丸ぼうろのようでもある。機械化できそうでできないのが製造の難しいところです。


片面を焼き、ひっくり返して裏面を焼きます。室温や火力は焼き上がりに影響するため、季節はもちろん、1日のうちでもこまめに調整しています。


焼き上がったら、ザルにあげて余熱をとります。焼き上がりが美味しいわけでなく、少し置いたほうがいいとか。冷めても美味しいのが逸口香の良さです。

空洞の秘密は黒糖にあり!?

 空洞が逸口香のユニークなところ。なぜ、空洞になるのでしょう? その秘密は内側の黒糖あんにあります。高温になると、生地が膨らむと同時に黒糖あんが溶けて内側の生地にくっつきます。内側の水分は蒸発するので空っぽ。本来、冷めれば生地は縮むはずですが、あんが補強材のような役目をしているために縮まず、また崩れもせずに、中は空っぽのままというわけです。
 逸口香は長崎から伝来し、「唐饅(とうまん)」と呼ばれていた饅頭が原型ではないかといわれます。中国の「空心餅」やごまかしの語源の由来とされる「胡麻胴乱(ごまどうらん)」にも似ています。長崎にも同じ形のものがありますが、サイズが小さく「一口香(いっこうこう)」と書きます。
 楠田製菓本舗の初代の教えは、「美味しいものをちゃんと作っていれば、商品が宣伝してくれる」だったとか。昔と同じ製法で手間ひまかけて作る逸口香は、人々に長く愛され、「故郷の懐かしい味」としてお土産や贈り物に人気です。帰省の際には、子どもの頃を思い起こして味わってみてはいかがですか。


楠田製菓本舗の逸口香の焼きたては、中央部が少し膨れているのが特徴。きめ細かな生地はサクッとした口あたり。店によっては生姜や柚子の風味のするものがあります。


楠田製菓本舗には1個入りと10個入りがあります。店によって包装、料金は異なります。食べ比べて好きなタイプを見つけるのも楽しいですよ。


1個80円だけど、10個買えば680円。ンン!? 計算違いでも書き間違いでもありません。10個入りは個別包装の代金を割引しているそうです。まさにごまかしのないお店です。

■DATA
楠田製菓本舗
○住所:佐賀県嬉野市塩田町大字久間乙3363
○電話:0954-66-2315
○営業時間:7時~19時
○休み:なし

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