

唐津城や海岸にも近い、情緒あふれる石垣の通りから入ります。

大正7年建造の居室棟と明治37年建造の大広間棟からなる旧高取邸。奥の煙突は、洋間のマントルピースのもの。
東に唐津城、背景に西の浜海岸。そして閑静な石垣の通りに沿って旧高取邸は建っています。建築家や大工など各方面のプロフェッショナルが知と技を集結させ、5年に渡る保存修理工事によりよみがえった高取邸。ここは、明治期に数々の炭鉱を開き、日本で最初の炭鉱技術者として石炭産業をリードした高取伊好(1850〜1927)の邸宅です。平成6年からの国の近代和風建築総合調査でその重要性が確認され、平成10年に国の重要文化財に指定されました。
約2300坪の敷地に建つのは、居住スペースとしての居室棟と、迎賓館的な役割を果たした大広間棟。平成9年まで高取家が実際に暮らしていたからか、邸内は人の息吹が感じられるような空間です。30以上あるという部屋をそれぞれに見渡せば、和風建築でありながら随所に洋風スタイルが取り入れられていることに気付かされます。これは、当時のいわゆる豪邸の特徴であり、伊好の洗練が垣間見られる一つです。希少価値ゆえ見学者には建築家も多く、また、大工さんが逆に建築技術の素晴らしい箇所をスタッフに説明したりすることもあったそう。訪れる人を魅了してやまない旧高取邸なのです。
館長 福地茂延さん
旧高取邸に多くのことを学んだという館長の福地茂延さん。「杉戸絵や欄間など細部にわたって見どころが多く、好きな人にはたまらない空間です。また、高取伊好の人柄もひしひしと伝わってきます」。


音響も考えて設計された能舞台。北側の広間と合わせて30畳の広さです。

能“藤”、狂言“福の神”の杉戸絵は圧倒的な存在感を放っています。
当時ケタはずれの豪邸だった旧高取家ですが、その印象は煌びやかなものではなく、一見質素ともいえる落ち着いた雰囲気です。しかし、目立たないところにこそ上質な意匠が施され、唐津湾を借景にした大広間やランプの淡い間接照明など随所に伊好の美学が感じられます。実業家であり教養人でもあった伊好は、漢詩や書、能を好み、自らも舞台で謡い舞いました。その文化・芸術への傾倒は、ふすまや全ての戸袋に描かれた杉戸絵や能舞台によく表れています。能の“藤”、狂言の“福の神”を演じる様子を描いた杉戸絵は躍動感が見事。また、大広間棟の中心をなす能舞台は、日本の邸宅に組み込まれたものとして現存する国内唯一のものといわれています。大正2年には、ここで大隈重信公の歓迎会が開かれました。
常々“人様のために”という信念に沿って歩んできた伊好は、教育文化保存にも惜しみなく資金をつぎ込み社会貢献を果たしています。当時、炭鉱で事故があると真っ先に駆けつけ、犠牲者遺族への援助に尽力したこともよく知られるエピソード。そもそも海岸脇の砂地に邸宅を建てたのも、水害等で被災者を救護できるようにともいわれ、人格者たる伊好の魅力が伝わります。

旧高取邸は、視線をどこに移しても芸術作品として鑑賞できる面白みもあります。それぞれ個性的な杉戸絵や動植物を描いた欄間、アールヌーボー調のシャンデリア、今では見られない屈曲したガラス窓、そしてそこから見える庭の景色までもが趣ある作品。杉戸絵だけでも72枚あるため、実際に足を運ぶときにはたっぷり時間をとって、どっぷり浸るのがおすすめです。ではここで、感慨ひとしおの“作品たち”をご紹介しましょう。
孔雀の欄間
欄間は全て意匠が異なり、こちらは孔雀と芥子の図柄。自然の光が孔雀の形で向こう側の壁に映り込むよう計算され、風流人の粋を感じさせます。
茶室
中庭に面して建つ茶室「松風庵」。他に伊好の妻志那の茶室「木香庵」もあります。
窓越しの庭
邸内にはふんだんに窓があり、さまざまな角度で庭の様子を見ることができます。思わず立ち止まってしまう光景です。
七宝焼
ふすま戸の引き金具に七宝焼の意匠。目立たないところに見せるこだわり、これぞ贅沢。
有田焼タイル
こちらはトイレ。壁と床に敷き詰められたタイルは有田焼です。反対側には男性用のイギリス製のトイレも。
洋間天井
洋間の天井は、古写真や残されていた破片を元に復元された漆喰天井。蝶をデザインしたシャンデリアがアクセント。
楊貴妃
杉戸絵「楊貴妃図」。漢詩の素養があった伊好ならでは。旧高取邸の杉戸絵は、その質・量ともに近代邸宅遺構として全国随一だとか。
旧高取邸の見方は十人十色。また屋外には土蔵ギャラリーや地下ワインセラーを持つ貯蔵庫、五右衛門風呂の家族湯殿などもあり興味は尽きません。まだまだ紹介したいところも多々ありますが、あとはぜひあなたの感性でご堪能ください。
旧高取邸 DATA
| 所在地 |
唐津市北城内5−40 |
| 開館時間 |
9時半〜17時(入館は16時半まで) |
| 休館日 |
月曜日(祝祭日の場合は翌日休館) |
| 入館料 |
大人500円 4歳〜15歳未満250円 音声ガイドシステム利用料300円 |
| 問い合せ |
- 唐津市教育委員会文化課
- 0955-72-9171
- 旧高取邸
- 0955-75-0289
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