10:00〜 JR有田駅
晩秋の旅のはじまり。

JR有田駅を中心に4キロ四方に広がる山間の町・有田。
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「近頃の旅のトレンドは路地裏ですよ!」ということらしい。
初めての旅ならば、一般的なガイドブックで紹介されている、名所旧跡やテーマパークを巡る“旅の王道”コースもいい。しかし、2度めに訪れるなら、ぜひ路地裏を歩いてみたい。軒が連なる細い通りの深い陰影、何食わぬ顔で横切る猫、そこに住む人々の濃密な生活感…。別世界に迷い込み、思いがけず素顔を覗きみるようなワクワク感が待っているのだ。
そこで今回は、日本の磁器発祥の地であり、400年の歴史を誇る陶都・有田の路地裏散策に出かけてみた。11月にあって有田の気候は温暖で、町を囲む山々も紅葉間近だ。案内役は、有田の名ガイドとして知られる浦川さんにお願いした。
「ちょうど良い時に来ましたね。先日の文化の日に、青木龍山さんが文化勲章を、十四代酒井田柿右衛門さんも秋の叙勲(旭日中)を授章したばかり。これから有田はますます元気になりますよ!」と、浦川さんは誇らしげに迎えてくれた。
 
JR有田駅で浦川さんと待ち合わせ。ハット帽と黒革の手帳がトレードマーク。手帳には、自ら調べ上げた有田に関するあらゆる情報がびっしり書き込まれている。
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10:10〜 泉山・碗坂通り
陶都の歴史の出発点に立つ。

陶石を掘り続けられて、奇観を呈する泉山磁石場。
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浦川さんの観光案内はまず、有田の輝かしい歴史の説明から始まる。スタート地点は、有田の東端にある泉山(いずみやま)磁石場。有田駅から車で10分足らずで到着した。
ここは秀吉の朝鮮出兵の際、佐賀藩主・鍋島直茂が連れ帰った陶工・李参平が、1616年に磁器の原料となる陶石を発見した場所。つまり日本の磁器発祥の地なのである。「李参平が佐賀に来た当初は、現在の多久市で陶器を焼いていましたが、白い焼き物への憧れから原料となる磁石を探し始め、30年ほど苦労してやっと見つけたようです」。

口屋番所跡。後方には国の天然記念物である樹齢1000年の大公孫樹(おおいちょう)があり、11月には黄金色に染まる。
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以来、磁器産業は佐賀藩の大きな財政基盤となり、技術の漏洩を防ぐために代官所が設けられ、厳しい統制がしかれた。その一つ「口屋番所」の跡地は、泉山磁石場から西に5分ほど下ったところに残っている。
やがて有田焼は伊万里港から海外に渡る。「ヨーロッパには約700万個が輸出されたそうです。この400年のうちに泉山は掘り続けられ、そっくり焼き物になってしまいました(笑)」。
10:40〜 トンバイ塀通り (1)
路地裏を彩るカラフルな塀の正体は?

トンバイ塀。製造技術の秘密を守るために、昔は高く積んでいたとか。
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江戸期以来の古い商家が並ぶ内山地区の本通り。この1本北側の通りに入ると、「トンバイ塀(べい)」が待っている。「窯焼さん集落があった通りで、表通りとは違う情緒がありますよ」と言う浦川さんの背中を追って、大公孫樹のある弁財天社の駐車場脇から裏通りに入って行った。
上幸平地区をくねくねと走る細い路地裏にトンバイ塀があった。トンバイとは、登り窯を築く時に使った耐火レンガのこと。「登り窯を解体した後のレンガや、トチン・ハマなどの窯道具を赤土で固めたのがトンバイ塀。今でいう産業廃棄物のリサイクルですよ。薪の松脂や釉薬が飛び散って、こんなユニークな色になったんですね」。

上幸平地区にある約1kmものトンバイ塀通り。
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ちなみに有田には朝鮮の陶工が多く住んでいたため、窯道具の名称など朝鮮語に由来する言葉が多い。ただし、トンバイの語源は中国らしい。「中国・景徳鎮の焼き物をヨーロッパへ大量輸出していたオランダの東インド会社が、17世紀の政変で中国に入れなくなった時、景徳鎮のデザインをそのまま有田にもってきて大量発注したのです」。中国との深い関係が、この塀の名前にも映し出されていた。
11:00〜 トンバイ塀通り (2)
由緒正しき窯元に出会う。

代々の当主は「辻常陸(つじひたち)」を名乗る。左は明治42年生まれ、96歳の十四代辻常陸。「楽しく身近な器も作りたい」と、自ら食器の絵付けをする現役だ。
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トンバイ塀通りを歩いて10分ほど過ぎた頃、古めかしい門構えの邸宅にたどり着いた。約180年の歴史をもつこの建物には「辻精磁社」という表札。何やら敷居が高そうな雰囲気で、「昔、この門を通る時、小学生は脱帽して一礼していた」とか。
それもそのはず、この辻精磁社は霊元天皇(1661-1672)の時代に、日本で最初に染付磁器を調進した禁裏御用窯元なのだ。「禁裏御用」とは今でいう「宮内庁御用達」の意。有田焼は「古伊万里様式」「柿右衛門様式」「鍋島藩窯様式」と大きく3つに分けられるが、公家の焼き物の様式美をもつ「禁裏御用様式」という分野も今新たに注目されている。
「さぁ、どうぞ中へ。普段は見学はできませんが、今日は特別ですよ」と言う浦川さんの顔パスで、十四代当主の絵付け風景を見学し、天皇家への献上品が並ぶお座敷を見学させていただいた。滅多にお目にかかれるものではない。浦川さんのお力に深く感謝。

平成天皇の即位の礼や紀宮様の成人式などを祝う杯も作ったとか。
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すぐ近くに衛生陶器の大手メーカーTOTOの社長を務めた江副氏の家や、一般の民家を利用した郷土料理店「小路庵(しゅうじあん)」(開店はイベント時のみ)がある。
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11:30〜 内山地区の表通り (1)
歴史に磨かれた名店を巡る。

深川製磁の向かいにある異人館。陶磁器の売買に訪れた外国人商が滞在した。
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さて、ようやくトンバイ塀の裏通りを抜け、古い商家が並ぶ表通りへ。江戸時代に設けられた上の番所(泉山)と下の番所(岩谷川内)を結ぶ、東西2キロにわたる内山地区の通りだ。札の辻の交差点あたりには、深川製磁、香蘭社、今泉今右衛門窯といった宮内庁御用達の名店がひしめいている。今右衛門窯には3階建ての小さな古陶磁美術館もあり、名品を鑑賞できる。
また、近隣には磁器製の鳥居のある「陶山神社」もある。「境内をJRが走る神社はここだけなんですよ」という線路を渡り、小高い山の中腹にある神社でお参り。さらに、「この上に行ってみましょう」と促され、神社脇の細い山道を登ると「李参平の碑」があった。ここからは有田の風景が一望できる。晩秋にしては熱い昼の日差しの中、さわやかな風に吹かれた。
13:00〜 内山地区の表通り (2)
有田名物「ごどうふ」を食す。

風味のよい四国の錦ごまを使った特製のごま醤油とおろし生姜で、ごどうふをいただく。つるんとした食感と淡白な味わいが、空腹にうまい!
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さて、時刻はお昼どき。全国的に有名な「ごどうふ」をいただくことにした。豆乳を葛と澱粉で練ったのがごどうふで、有田の仏事には欠かせない。10年前に雑誌「サライ」に取り上げられ、NHKの全国放送で紹介されてから人気が爆発した。
ごどうふ自体の味はどのお店も変わらないが、差をつけるのがタレである。「ここのごま醤油がおいしいんですよ」と案内されたのは、今右衛門窯の隣にある「紀文鮨」だった。
お隣の今右衛門家同様、この店を営む中島家も赤絵師の家系で、大正頃に豆腐店に商売替えし、ごどうふを開発したらしい。「ひいおばあちゃんが大豆の買い付けに出かけた長崎で、福建省の人に作り方を教わったそうなんですよ。ごどうふの「ご」は、中国の「呉」から来ているんじゃないですかねぇ」とご主人の淳一さん。

神戸から観光に来たご夫婦と、ご主人、浦川さんの器談義が始まった。観光客に気さくに声をかけるのも浦川さんらしい。
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店内には、一目でそれと分かる貴重な器がたくさんあった。手元の醤油の小皿も今右衛門の色鍋島。人がごった返す陶器市のシーズンは、さすがに破損が怖くて表に出せないらしい。ということは、良い器で食すならシーズン外の方がいい…!?
14:00〜 黒牟田・応法の通り
ひそかに人気のノスタルジックな集落。

赤絵の技法を創始した酒井田柿右衛門窯。一子相伝の技で、濁手(にごし手)と呼ばれる乳白色の素地を作り、ヨーロッパの陶磁器にも深い影響を与えた。
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午後からは、町はずれにある柿右衛門窯、源右衛門窯、真右エ門窯という名作家の窯元と、有田陶磁の里プラザを一気に見て回る。さらに有田西部から龍門ダム方面へ向かい、黒牟田と応法(おうぼう)地区を結ぶ通りに出た。にぎやかな中心地からずいぶん外れてしまったが、「昔から窯場は、泉山や応法などの谷間の集落にあったそうです。窯をたく原料の木が豊富にありますし、煙の公害対策もあったのでしょう」。
ここは、明治〜大正期の窯場の風景が見られるスポットとしてひそかに人気らしい。戦後、廃窯となった石炭窯がポツンと佇んでいる風景は、夕焼けの光線の中で郷愁をかきたてていた。

250年の歴史をもつ源右衛門窯。その意匠は焼き物だけでなく、インテリア・雑貨にまで生かされている。敷地内には古伊万里資料館があり、工房も見学可能だ。
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ルビー色の辰砂という技法で高い評価を得る真右エ門窯。
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広大なエリアに25の店が並ぶ有田陶磁の里プラザ。駐車場完備で一気に買い物したい時はここ。
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ノスタルジックな黒牟田・応法の通りと、猪子谷単室石炭窯。
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16:00〜 再びJR有田駅
旅の終わりに思うこと。
浦川さんのおかげで、わずか1日で有田のフルコースを満喫した。普段の観光では見られない、有田の素顔に触れた旅ではなかっただろうか。
「日本はもちろん、世界各国に名をはせた、焼き物発祥の地・有田の魅力を堪能していただけたでしょうか?」とにっこり笑う浦川さん。その笑顔を見ながら、感謝の気持ちと共に思ったのである。有田の文化の継承者が焼き物の職人たちだとしたら、郷土をこよなく愛する観光ガイドは文化の伝道師なのである、と。
お買い物だってしたい!
プチみやげアラカルト

深川製磁で見つけた小さなお土産。箸置きと醤油さし。
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源右衛門はファッション雑貨も人気。ビニール製で丈夫でしかもお手頃!
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来年の干支にちなんだ犬の置物(源右衛門)。
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近頃は磁器製の高級万華鏡がひそかな人気(源右衛門)。
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柿右衛門のカップ&ソーサーは一生ものです!
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<参考資料>
「Petit Travelぷちトラ」1号(2005年4月・シアンデザインマネジメント刊)
※本文中の時間は目安で、個人の見学するペース等によって異なります。
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